- 2008年10月31日 11:06
- Ramsar:ラムサール条約 | news:ニュース
ラムサールCOP10において、日本のNGOは下記のような政策検討書の英訳を配布し、各国代表らにロビー活動を行っている。(原野スキマサ)
湿地政策検証の要約
はじめに
第10 回ラムサール条約締約国会議(2008.10.28−11.4 韓国チャンウォン市)および第1 回世界NGO 湿地会議(2008.10.25−10.27 チャンニョン、スンチョン)にむけて、「ラムサールCOP10 のための日本NGO ネットワーク」は、日本の湿地の現状と湿地政策の検証に関するレポートを作成した。本書は、そのレポートの湿地政策検証の部分を要約したものである。ここでの検証と提言は、今後、日本の湿地NGO の行動計画を立てるための基盤となる。
■河川とダム
河川・ダム政策の根幹を成す河川法は、1896 年に「治水」を目的に制定されて以来、1964年に「利水」、1997 年に「環境」が目的に加わるという2 度の大改正を経た。しかし、河川計画の決定手法は、大きく変わったとは言い難い。住民意見を反映する具体的措置は「公聴会の開催等」以外には明文化されておらず、すべては河川整備基本方針で決定してしまう。ほとんどの水系で旧法に基づく工事実施基本計画が踏襲され、見せかけの住民参加でしかない。こうした限界の中で、法改正の趣旨を最大限生かしたのが「淀川水系流域委員会」(2001 年発足)である。この委員会では、情報公開、住民参加が徹底され、河川法第16 条の2 の実現を目指したと言える。しかし、現在は旧態依然の手法に戻りつつある。日本は人口と税収の減少する社会を迎えている。今後必要となるダム撤去や維持管理費を計算すれば、新規のダム建設を行う余裕はないと考えるべきである。また、河川法を改正し、住民参加によって環境を重視した地域の治水のあり方を決めるべきだ。ラムサール条約決議Ⅷ.2「世界ダム委員会(WCD)の報告およびそのラムサール条約との関係」(2002 年)にもとづき、今後、国内の川を可能な限り自然に戻し、国内外で得た教訓(失敗)を途上国への政府開発援助によるダムで繰り返されないように留意することが、日本にとっての役割である。 (まさのあつこ ジャーナリスト)
■湖 沼
国内の33 箇所のラムサール条約湿地のうち、湖沼を含むものは22 箇所あり、全体の2/3を占めている。これらの条約湿地は、鳥獣保護法、自然公園法、または種の保存法で保護管理されているが、これらの法律は本来湿地の保全に関わるものではないため、その機能を十分果たしているとは言いがたい。湖沼を含む22 のラムサール条約湿地の内、水面だけが指定されている12 の湖沼では、湖岸に隣接した陸域での開発への対処が困難となる。例えば、伊豆沼では、2005 年に湖畔で温泉掘削計画があったが、法的規制ができず、県は許可を出したが、全国的な世論の力でなんとか中止となる事件があった。湖沼の管理・保全には、その緩衝地帯や流域を一体化して考えることが重要だ。最近、緩衝地帯としての水田に注目した取り組みが広がってきた。湖沼を含む22 の条約湿地の内、11 の条約湿地はその周辺に水田(農業湿地)が存在し、ラムサールに対する農家の意識も変わり、2005 年にはラムサール条約湿地「蕪栗沼・周辺水田」が実現した。法的整備も必要で、1)湿地保全法などの新しい立法、2)ラムサールの精神に符合する地元主導の「ラムサール地域条例」の策定などが求められる。既存の条約湿地の機能向上のために条約湿地の範囲を、周辺湿地まで拡大すること、及び新たな登録湿地を増やすことは今後も続く大きな課題である。 (呉地正行 日本雁を保護する会)
■水 田
日本の農村の生物多様性は、二千年以上にわたる稲作を中心とした農業生産によって維持されてきた。しかしながら近年、農薬や化学肥料の使用等によって農村生態系が様々な危機に直面している。また、農村の過疎化、高齢化が進み農業生産活動の停滞や集落機能の低下がみられ離農が進んでいるのが現状である。しかし、一方「土作り」、「化学肥料や農薬の低減」を導入した自然再生型農業に取り組んでいる農家は着実に増えている。豊かな生態系を利用した水田農業がある限り、健全な経済成長が可能になる。ラムサール条約が提唱している「湿地の機能」や「湿地の価値」をCOP8 の文書15「湿地の文化的側面」を含め再認識し、水田農業の多面的機能を活かした賢明な利用を行うことが喫緊の課題となっている。近年になって見直されてきた生物多様性農業評価の枠組みについて、次のような分類体系が見えてきた。(1)高付加価値販売、(2)行政による環境直接支払い、(3)民間型環境直接支払いとそれを支援する税制措置、(4)地域環境農業ブランドである。これらを複合的に機能させる必要がある。一方、評価する指標がなければ農家に対する直接支払いを国民は受け入れないだろう。そこで田んぼの生物多様性試案「田んぼに棲息する生物(動・植物)に着目した指標1と「仕事・技術・立地に着目した指標」指標2を作成した。また、そのベースとなる、日本に棲息する水田の生きものに全リストを公表する予定である。 (岩渕成紀 NPO 法人田んぼ)
■干 潟
干潟・浅海域は、生物多様性、水質浄化、漁業生産の場として重要な湿地環境である。しかし、日本では、その重要性が顧みられず、埋立や干拓により1945 年から2005 年の60年間に約40%の干潟が消滅した。これには全国総合開発計画(第1 次〜5 次)などによる臨海部の重化学工業地帯開発や、フェニックス計画による廃棄物埋立と都市再開発の政策が大きく関係している。また、当初は米増産を目的とした大規模干拓事業も大きく関与している。これらの干潟・浅海域の埋立・干拓は「公有水面埋立法」(1922)にしたがって実施される。しかし、この84 年前の法律では、環境保全への配慮が極めて不十分であり、早急に廃止して「公有水面保全法」を制定するべきである。「海岸法」その他の海岸関連法では、縦割りを解消するような省庁間連携の制度が必要である。環境影響評価法では、代替案の義務化やアセス手続きの形骸化を防ぎ、第3 者の審査機関に権限を持たせるなどの改正が必要である。干潟・浅海域については、現存干潟の保全、劣化干潟の回復、消滅干潟の再生など「保全・再生の原則」を確立するべきである。また、ラムサール条約の決議等を活用し政策に取り込んで,干潟・浅海域の保全と賢明な利用を図るべきである。(花輪伸一 WWF ジャパン)
■砂 浜
日本の海岸の総延長約33,000km のうち砂浜は約5,900km と18%を占める(*1)。しかし、その陸側と海側には、ほとんどの浜でコンクリート製の波消しブロックや垂直護岸、階段・傾斜護岸、道路、離岸堤、突堤、ヘッドランド、人工リーフ等の堅牢な人工物が何かしら設置されている。人工物がない自然の砂浜・れき浜海岸は、1 割にも満たない(*2)。ウミガメやコアジサシなど多様な生物の生息地である砂浜の植物群落は、①護岸工事や埋め立て、②防砂防潮を目的とするクロマツ植林などによる群落生育地の減少、③道路や堤防による砂浜の分断、④外来種の侵入によって生育環境が失われつつある。さらに各地で進む海岸侵食は重大な問題である。砂浜の保全を図るには、海−汀線−砂浜−後背地といった海岸環境の連続性を確保し、奥行きのある砂浜を維持する必要がある。そのためには、現存する自然の砂浜を保護地域として保全する、各地に自然状態の砂浜を復元する、砂浜への人工物はこれ以上造らない、侵食の原因を根本的に取り除く施策を行なう、市民参加の海岸管理を行う、国レベルの海岸のモニタリングを行なうことが必要である。(開発法子 日本自然保護協会)
*1 第5回自然環境保全基礎調査 海辺調査 総合報告書,環境庁,1998
*2 植物群落からみた海岸白書,日本自然保護協会,2008
■サンゴ礁
沖縄のサンゴ礁は本土復帰(1972 年)以降、開発行為による直接の埋め立てや開発行為に伴い海に流れ込む赤土の影響を受け、また天敵であるオニヒトデの異常繁殖など様々な危機にさらされている。1998 年には異常気象のため世界的な大規模白化現象があり、沖縄のサンゴ礁もその影響を受けた。長期モニタリング調査方法の1つであるリーフチェックの結果によると1998 年に大きくハードコーラル(サンゴ)比率が下がっている。その後のサンゴの回復状況に関しては地域差があったが、元通りに回復し良好な状態を保っていた八重山諸島海域のサンゴ礁も2007 年夏に再び高水温の影響を受け、大きくハードコーラル率が減少した。保全対策の一環として沖縄県は1995 年に赤土防止条例を施行しているが、いまだに赤土流入に十分配慮しているとは言いがたい開発工事が行われており、また保全措置として海中公園も設置されているが、他国と比べてその設置数が少なく個々の面積も小さいのでなかなか効果が出ていない。沖縄のサンゴ礁はオニヒトデ等の生物の食害の影響を受けており、また高水温にさらされることも多く、地球温暖化は今後頻度を増すと言われている。また、サンゴの病気や海水の酸性化など正体が未だ解明されていない危機にもさらされている。現在あるサンゴ礁・サンゴ群集の保全が最優先の課題である。(安部真理子 沖縄リーフチェック研究会)
■マングローブ林(西表島)
沖縄県県内には644ha のマングローブ林があり、その約78%の503ha が西表島に分布している。西表島の人口は約2,200 人であるが、年間40 万人弱の観光客が入域している。入域観光客の増加から、エンジン付き観光船の自主的な運航規制や、ガイドの観光客同行人数制限にも自主的に取り組まれている。入域観光客が急激に増加した仲間川では、人為的な負荷がマングローブ生態系にどのように影響を及ぼすのかのモニタリングをはじめている。しかし、単一の河川ではなく、観光客の増加が、西表島の生態系全体にどのように影響を及ぼしているのかの総合的で長期間のモニタリングが必要とされる。観光客の増加によってゴミの量も増加しているが、家庭からの生活排水、ホテルや民宿などからの排水についても法的整備と監視システムを作り上げ、河川や海岸の水質の悪化や富栄養化も防止が必要とされる。また、西表島では再び大型リゾートホテル建設計画もあり、西表島全体の土地利用と開発に関するグランドプランの再検討とサンゴ礁・マングローブを含めて野生生物の保全策の策定が緊急の課題である。(馬場繁幸 琉球大学熱帯生物圏研究センター)
■ラムサール条約と国内政策
2008 年6〜7 月にベトナムで「アジア湿地シンポジウム」が、釧路市では国連機関による多国間環境条約に関するワークショップが開催された。温暖化対策、生物多様性保全、そして湿地保全との関係、調整のとれた取り組みの必要性が話し合われた。しかしながら、これら3 つの主要な条約の履行を地方レベルでうまく噛み合わせることは容易ではなく、人々の意識も簡単にはついて行けない。そんな中でラムサール条約は限定的である一方、具体的な取り組みをイメージしやすいという長所がある。日本では政府レベルでのラムサール条約対応は十分ではなく、強化が必要だ。環境省の内部における横断的調整、省庁間における横断的取り組みが必要であり、何よりも国家湿地政策策定に向けての取り組みが日本の急務だろう。ラムサールCOP5 の開催国日本とCOP10 開催国韓国との協力が必要となってくるが、日本の湿地政策は他のアジア諸国への影響がきわめて大きい。日本はさらに2010 年に生物多様性条約のCOP10 開催国となる。本年同条約COP9 にて報告された「生態系と生物多様性の経済」報告書では「生物多様性オフセット」が取り上げられ、湿地ミティゲーション銀行の取り組みが例としてあげられている。湿地保全や湿地の経済評価を通じて、生物多様性保全、気候変動への対策を考えていく取り組みが効果的だ。(小林聡史 釧路公立大学)
■ラムサール条約湿地
日本はラムサール条約締約国となった1980 年から1993 年の釧路の第5回締約国会議(COP5)までに9 ヶ所、2002 年のCOP8 までにさらに4 か所の条約湿地を登録したが、2005年のCOP9 で一度に20 か所を追加登録して条約湿地を33 か所とした。2007 年11 月には第三次生物多様性国家戦略が策定されて、2011 年のCOP10 までにさらに10 か所の登録を目指すとしている。しかし、今までの追加登録の経過は、COP7 で採択され、COP9 で改正された「ラムサール条約の国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」の「優先する候補地を特定する」、「規模の小さい湿地を見過ごさない」、「登録に際し既に何らかの保護区に指定されていることや登録後に必ず保護区に指定されることを要求しない」等の指摘に反して、本来登録されるべき重要湿地の多くが未だに登録されないばかりか、諫早干潟のような重要湿地を破壊してきた。今後は、ガイドラインに従って、本来登録されるべき重要湿地の登録を実現させなければならず、そのための湿地保護法制の確立が求められている。(浅野正富 ラムサール条約湿地を増やす市民の会)
■フライウェイ・パートナーシップ
東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(渡り性水鳥保全連携協力事業)とは、東アジア・オーストラリア地域において、渡り鳥にとって重要な生息地の保全を国際的に進めていくための国際連携協力事業である。具体的な活動内容としては、①水鳥保全戦略(第Ⅰ期:1996-2000、第Ⅱ期:2001-2006)の下に構築されたシギ・チドリ類、ツル類、ガンカモ類の3 種群の重要生息地ネットワークを土台として、東アジア・オーストラリア地域に生息するすべての渡り性水鳥を対象とする重要生息地の国際的なネットワークを構築する。②ネットワーク参加地における渡り性水鳥及びその生息地の保全と、持続的な利用に関する普及啓発、調査研究、能力養成、研修活動、情報交換等を推進していく。渡り性水鳥にとって重要な生息地は、所定の手続により、渡り性水鳥重要生息地ネットワークに参加できる仕組みとなっている。日本からは、水鳥保全戦略に基づく3種群の重要生息地ネットワーク参加地(27 ヶ所)が、フライウェイ・パートナーシップに基づく重要生息地ネットワークに移行した。東アジア・オーストラリア地域全体の参加地については、現在移行期間中であるが、14 カ国・約90 カ所が参加する見込みである。(岸本伸彦 日本国際湿地保全連合)
■CEPA
「CEPA」は、「Communication, education and public awareness」の略称で、「交流・教育・普及啓発」のこと。湿地の「保全・再生」と「ワイズユース」を進めるために、CEPAは重要な役割を果たす。湿地を一時的な利用ではなく、将来も持続可能なよう利用し、自分たちの生活を含め豊かにしていく。そのために湿地に関する様々な情報を広く伝えあい、学び、理解していくことがCEPA である。COP10 では、「P」が「participation 参加」という言葉になる予定であり、自ら進んで参加することが重視されている。CEPA というと、観察会や講演会、ポスターやパンフレットなどの形態によるものがイメージされやすい。しかし、地元の人が自らの経験や感想、希望などを語り合うワークショップも、、日本国際湿地保全連合によって開催されている。その中では、自分たちの湿地という意識、今後の方向性、世代を越えた経験などが、積極的に話し合われて、共有されている。このような交流や主体的な参加が基礎となる活動が基本にあって、観察会や講演会も有効に機能する。ラムサール条約では、締約国に国内CEPA 行動計画を作成するよう求めており、すでにオーストラリア、ドイツ、ハンガリー、スペインが提出している。NGO、自治体や地域の人々と共に個別地域ごと、湿地ごとに地元の湿地における「○○湿地CEPA 行動計画」の計画作りに協力しながら、計画策定を国に働きかけていくことが、求められているのではないだろうか。 (佐々木美貴 日本国際湿地保全連合)
■自然再生
近年、全国各地で法律に依らない自然再生の事例が増加している。他方で自然再生推進法に基づく政策的事業を行っている協議会は、施行後5 年間で18 例が設置されているにとどまるなど、総じて問題を抱えており自然再生の実効が小さい。それは住民主導ではなく行政主導になっていること、協議会での合意形成が困難なことが主な原因と思われるので、今後は法運用上の改善や工夫の余地がある。しかしこの法律だけに任せていては、高々、点の規模での再生しか期待できず、第三次生物多様性国家戦略が目指す生態系ネットワークの復元という規模での本格的な自然再生には結びつきそうもない。いま特に必要な自然再生の政策は、ラムサール「湿地復元の原則とガイドライン」(Ⅷ.16)の原則8 を忠実に履行することである。なぜなら「復元可能な湿地の目録」も、その「復元計画」も定められていないために、最も優先的に復元が図られるべき諫早干潟が再生されないまま放置されているのが現状だからである。我が国の湿地政策を確立するには、湿地保全法の制定が不可欠であるが、その中に全国湿地復元計画の策定を義務付ける条項を入れることが、自然再生政策にとって緊急の課題となっている。(羽生洋三 有明海漁民・市民ネットワーク)
2008 年10 月20 日発行
COP10 のための日本NGO ネットワーク
編集部会
花輪伸一,開発法子,柏木実,古南幸弘,
羽生洋三,堀良一,浅野正富