アカウミガメの産卵地として知られる表浜海岸で、今夏、見慣れないタートルトラックが観察された。
タートルトラックとはウミガメが上陸した際に砂の上にできる模様のことであるが、アカウミガメとアオウミガメでは異なっている。日本ウミガメ協議会のサイトによると、アカウミガメは陸上を匍匐(ほふく)する際に左右の前脚を交互に出すため、タートルトラックも左右互い違いになっている。一方、アオウミガメは両前脚をそろえて動かすため、タートルトラックも左右並行になる。とはいえ素人にはこの違いはそれほど明瞭なものではないが、毎日ウミガメの上陸観察をしているものにとっては一目瞭然(りょうぜん)であるらしい。
事実、表浜ネットワークのブログには、2008年8月20日にアオウミガメらしきタートルトラックを発見したとの記載がある。アオウミガメの本州における上陸は、記録はほとんどないレアケースである。これがもし事実であるなら学術的にも貴重なデータとなるはずだ。表浜ネットワークでは、日本ウミガメ協議会はじめ各方面の専門家にタートルトラックの写真を送り意見を訊くなど、情報収集を行っていた。
同年10月22日、新聞各紙は「愛知でアオウミガメ産卵、本州で初」などと報じた。これは豊橋市環境部が報道各社にプレスリリースをしたためである。
朝日新聞 アオウミガメ産卵、本州で初 愛知の海岸、温暖化影響か
読売新聞 アオウミガメの産卵、本州で初めて愛知県で確認
毎日新聞 アオウミガメ:産卵、愛知・豊橋で確認...本州で初
東愛知新聞 本州初のアオウミガメ産卵...表浜で確認
東海日日新聞 本州初アオウミガメ産卵確認
これらの記事を読むと、(表浜ネットワークの調査では産卵が確認されなかったが)8月20日に上陸したアオウミガメが産卵していことがわかる。しかし、それがアオウミガメであることにどの時点で気づいたのかが、各紙バラバラなのだ。なぜこれほどに記述に違いが出るのか?
不思議に思い、豊橋市広報広聴課からプレスリリースを取り寄せてみた(FAXで送られたものをスキャニングして掲載)。


このプレスリリースには下記のようにある。
▽上陸日 2008年8月20日
▽産卵巣 1/産卵数 104個
▽孵化調査日 2008年10月18日
▽孵化調査時の状況 産卵巣の卵はすべて死滅。その中から発生段階の仔ガメの死体を発見し、南知多ビーチランドの学芸員に同定依頼をし、アオウミガメであることを確認。
この文書には上陸時のようすやその後の経緯については記載がないため、各社の記者が市の担当者か、報告者である属託調査員に直接インタビューをして記事にしたのであろう。
朝日・読売では、産卵巣を見つけ、割れていたもの以外を移殖したとある。
毎日は移殖について記述がない(プレスリリースの内容そのまま)。
東愛知新聞では、移殖ではなく産み落とされたものが露出していたので上から砂をかぶせたとある。
東海日日では移殖に関する記載はなく、「途中イタチか何かに荒らされて」散乱したとある。
なぜこんなにバラバラなのか!?
読めば読むほどわからなくなる記事である。
蛇足であるが、この件に関するプレスリリースの原本にあたろうと思い豊橋市のホームページを見たが、それがどこに掲載されているのかわからなかった。そのため豊橋市に電話で尋ねると、広報広聴課は「報道資料はサイトには掲載していない」と言う。そこで「一般市民がプレスリリースの内容を確認したい場合は、たとえば市役所とかに行けば見ることができるのか?」と重ねて尋ねると、どこにも公開はしていないし、また過去に市民からそのような要求もなかったという。
こちらがフリーランスのライターであり、このアオウミガメ産卵に関するリリース内容を確認したいためFAXして欲しい旨を伝えると、「たぶん問題はないと思います」と答え、しばらくあとで当該文書が送信されてきた。
ちなみに、豊橋市同様、愛知県内の中核市である豊田市も岡崎市も、それぞれのサイトで報道資料は公開している。
(原野スキマサ)